※LIXIL のウェブコラムシリーズ「パブリック・スペースのゆくえ」に寄稿したコラムの内容を抜粋して掲載。記事全文はこちらのリンクからご覧ください。

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〈間の空間 その1〉─ゲーム実況者(仮)の隣人との間

私が住んでいるのは、鉄骨造3 階建て、1 フロアに3 部屋だけの小さなアパートである。その3 階真ん中の部屋が自宅である。

「ひゃっほー!」と隣人の声が響く。隣室との界壁が薄いのか断熱材が入っていないのか、大きな音は筒抜けで、それがふっと笑えて心地良いときと、なんだか無性に腹が立つときと、両方ある。聞こえるのは本人の声のみで、テレビや話し相手の声が聞こえないので、その盛り上がり様から勝手にゲーム実況者と想定している。

そこで、隣人と私との間に「隣人の声に腹が立たなくなる私に変化する空間」を計画する。

界壁を2 重にし、薄い吹抜けをつくる。植物を育て、野菜や花の実る共同のサンルームとする。
隣人以外の雑音が入り混じった界壁となる。

〈間の空間 その2〉─週1 でBBQ をする1 階のファミリーとの間

在宅勤務が続き外の刺激を求めて、自宅の最も奥の空間であるベランダに居場所を求めるようになった。
椅子を持ち込んで、膝の上で簡単なPC 作業をしてみている。すると同じように自宅の中の奥庭のようなその場所を発見した人たちがほかにもいた。同じアパート1 階のファミリーである。1 階はべランダというより小さな庭となっていて、私のベランダより500mm ほど奥行きが広い。奥行1500mm ほどあるので、アウトドア用のテーブルを置いて4 人で囲むことができる。週末、BBQ のいい匂いが3 階まで立ち上ってくる。とても羨ましい。

そこで、BBQ する1 階のファミリーと私との間に「1 階のファミリーが羨ましくならない私に変化する空間」を計画する。

私もこの場所で余暇を過ごして楽しんでいる、という空間にする。つまりは真似だ。
日中は日除けとなる可動式のスクリーンのを付けて、ベランダをシアター化する。隣人も見てよし。

〈間の空間 その3〉─壁打ちテニスおじさんとの間

久しぶりに外に出ると、アパートの前の道路でテニスの壁打ちをしているおじさんがいた。
私がアパートを出ると、壁打ちをやめてしまった。別の日には、同じ道でバトミントンをしていた少年たちと出会い、彼らも目が合うとやめてどこかへ行ってしまった。道路を広場のように創意工夫を凝らして使う様子は見ていてとても楽しい。

そこで、壁打ちテニスおじさんと私の間に「壁打ちテニスおじさんを邪魔しない私に変化する空間」を考える。

例の道路に出ず、他の道へ出られるもうひとつの玄関をつくる。壁にぶつかるボールの音を聞きながら出入り口を選ぶことができる。
そういった家が集まると、本当に道を広場とすることができるかもしれない。

Lixil Column

LIXIL のウェブコラムシリーズ「パブリック・スペースのゆくえ」に寄稿したコラムのひとつ。新型コロナウイルスの影響により気づかされた、自身とパブリック・スペースとの境目についての小さなアイデアである。自分と他者の間を改変することで、自分自身をもつくり変えてしまうような空間=パブリック・スペースを自宅につくる、という架空のプロジェクト。

One of the columns contributed to LIXIL's web column series. It is a small idea about the boundary between oneself and public space, made aware by the effects of the new coronavirus. The project is an imaginary project to create a public space in one's own home, a space in which one can remake oneself by altering the space between oneself and others.

Date Dec. 2019

Type Unbuilt project

Link Lixil column

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