秋本邸 - エピソードでめぐる住宅 -
秋本邸は、姉夫婦とその子ども2人のために設計した住宅です。
果物畑が虫食い状に残る、なだらかな傾斜の続く住宅地に建っています。
設計していたときには、彼らが初めて住まうこの土地にどう馴染んでいくのかや、この土地がもつ伸びやかな質をどのように空間に結び付けるか、を考えていました。
現在建ってから1年半住まわれ、小さなエピソードがたくさん積み重なってきています。
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この住宅に住んでいる7歳の「たけちゃん」が、さっきまでリビングで遊んでいたおもちゃを、
邪魔だからとサンルームにひょいと置かれてしまったときに、「上に置かないで~・・・!」と泣き出した。
ごめんごめん、とおもちゃを下ろした。
彼にとって、サンルームは「上」という場所で、手が届かず、行くこともできない世界なのだ。
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「お姉ちゃん」の生きる住宅と、「たけちゃん」の生きる住宅は実は違った世界で、それらが重なり合って折り合いをつけてたまたま今成立しているものがこの住宅でした。
無数にある違った世界を、区切らず、分けず、できる限り連綿と連ねて、間にある空間をできるだけ豊かに育てて、道やまちへと拡張しながら、風景と家族の結節点としてこの住宅は建っています。
今回の展示では、秋本邸を「お姉ちゃん」の目線でめぐります。
たくさんの出来事のなかには、子どもたちや夫、設計者兼妹であるわたしも登場します。
めぐるうちに、さっきまで「お姉ちゃん」だったけれど「たけちゃん」になってしまうかもしれません。
いま住宅で起こっていることや設計中の出来事、幼いころに過ごした実家での出来事、昨日や少し未来の出来事、それらすべてが繋がり時間を越えて縦横無尽にめぐることで、この住宅を経験する展示です。
まずは秋本邸へ帰宅するところからはじまります。
いつものカバンを持って、家へ向かって、ゆるやかな傾斜を登って・・・
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この住宅では1日のうちに何度も往復します。往復しながら、窓を通して様々な姿勢、様々な解像度で外を見ることになります。だらっとリラックスした視界の端に地面の草を見る時もあれば、勉強の合間に目の筋肉を緩ませながら向こうの住宅を見るなど、身体の動きにくっついて日々のイメージが積み重なっていきます。そういった身体の動きとイメージのセットを「エピソード」と言ってみようと思います。
このスケッチは、そういったエピソードが自身と風景を紐づけていった様子を描いています。まるで住宅がこの土地に根を張るように感じられます。
エピソード(episode)とは、辞書的には「本筋とは関係なく合間に挟み込まれる話」のことを言います。毎日起こる合間の出来事は無数にあり、それをできるだけ拾い上げひとつひとつを特別なものとして想像していくことが、彼らがこの土地に豊かに馴染んでいくことに繋がると考えています。
Under 35 Architects exhibition
Under 35 Architects exhibitionは、35歳以下の建築家を対象に全国から出展者を募り、ひと世代上の建築家・建築史家たちの審査を経て選出された7組による展覧会。2021年で12回目を迎えている。
Under 35 Architects exhibition is an exhibition of 7 architects under 35 years old, selected through the review by architects and architectural historians of one older generation. The exhibition marked the 12 times it has been held, in 2021.
Date Oct. 2021
Type Exhibition
Location Umeda, Osaka
Photo Satoshi Shigeta